「偃松尾大黒尾根」と呼ばれる尾根に、笊ヶ岳への古い登山道が眠っている。 早川町の白石集落から大黒山と偃松尾山を経て笊ヶ岳へと至る偃松尾大黒尾根は、南に位置するランカン尾根と対をなし、大武刀尾根と保川を挟みながら長大な尾根を東へと落としている。 廃道となって久しい現在、ここを訪れる登山者はさほど多くはない。 笊ヶ岳の右で鋭利な尖塔を空に向けているため、甲府盆地からの山座同定は容易である。 山行途中で逃げ出したのだという歩荷には、感謝しかない。 ※上河内岳からの笊ヶ岳(右)と偃松尾山(左) 近所の変態T氏と『秋になったら小渋川をやろう。』と前々からの計画があった。 しかし決行の数日前にまとまった雨が降り、増水を恐れてこれを取り止めた。 「今回の笊ヶ岳は大黒山を通るんだよ。」と伝えると、「どこすか、それ?」との返答があり、この代替案が俄然楽しみになった。 予備日の金曜日は移動日とした。 昼過ぎにT氏をピックアップ、近所のスーパーで買い物を済ませた後、薄暗くなる頃に早川町へ入った。 この頃、T氏から他言無用で願いますと、大きな山行計画の話を聞かされていた。 あまりにも次元の違いすぎるその計画に、無知な私は質問すら浮かばない。 ただ「無事に帰ってこいよ」、それだけを思っていた。 ついつい買いすぎてしまう、お総菜テント宴会がこの日も楽しかった。 やたらと虫が多く、足元は草だらけではあるが、とても有難い存在だ。 昨夜私がFBに投稿した記事を見て、近くの妙な山に向かう途中で立ち 05:10、Hさん達に声援をもらい出発する。 久しぶりの再会が嬉しかった。 最初の目標は「大黒山」(1990m)、標高差は約1550mである。 結局、勘で進んだ方向に正解があった。 ゾッとなって川床へ降りた。 4L程取水するとザックがずっしりと重たくなった。 深田久弥一行は、保川沿いに詰めたのだと聞いたことがある。 このルートだったのだろうか。 足元がかなり悪く、ガラガラと落石を起こす。 手を合わせ先へ進む。 尾根通しで上げるのが正解だったのだろう。 尾根を避けようと巻きながら進むと、足場の狭い高度感のある通過点が現れ悪態をついた。 梢の先に人知れず落ちる滝を見た。 山で見るゴミは決して気持ちの良いものでは無いが、この手の残留物は趣を感じることができるから不思議なものだ。 真新しいクマの糞が無数に落ちていた。 遠くに「小笊」を見つけたT氏が嬉しそうにレンズを向ける。 ランカン尾根には、我々の想い出が詰まっている。 一休みして歩き出す。 不明瞭ながらも尾根には道型があった。 流れの下には大きなヌタ場があった。 周囲は苔むしており、足元はふかふかだ。 三重山稜を見回すと、最も北側でそれを見つけた。 なんて静かな三角点なのだろうか。 山に登るとそんなことを良く思う。 廃道上のピークであれば尚更のことだろう。 T氏と二人、「熊小屋」同様、なかなか立ち去ることのできない三角点だった。 ここから先は稜線歩きとなる。 次に目指す「偃松尾山」までの標高差は約550m、距離は気が遠くなる程にまだ長い。 偃松尾山と笊ヶ岳が見えるはずであったが、残念ながらガスが湧き始めてしまっており、願いは叶わなかった。 尾根は変化に富んでいる。 小さなアップダウンが連続するようになると体力を奪われた。 行く手を阻む大岩は、互いに距離を保ち左から巻いた。 立ち枯れの木が多く、手掛かりに悩まされなから上げて行く。 二人とも良く足が出た。 そのため、偃松尾山を越えた先にある水場への下降点を幕営地の目標とした。 この辺りから徐々に藪が増え始め、思うように距離が稼げなくなる。 ハイマツの切れ目を縫うように進む。 しかしその密度が濃くなると避けることが難しくなり強引に突破することを決めた。 バキバキと音をたて、方向感覚の無いままハイマツの海を泳ぐ。 え? もう山頂? 17:20、「偃松尾山」(2,545m)登頂。 流石だなぁ、T氏。 手元の明るい内に幕を張ろう。 生木割山(2539.3m)が間近に見える、この山頂での幕営を決めた。 手早く設営しテント越しに乾杯。 焚き火はおこさなかった。 明日はガスの奥にあるはずの秀峰達を見ることができるだろうか。 前回のランカン尾根では、同じように期待と不安の一夜を過ごし、結局何も見ることができなかった。 気温は高く、風の穏やかな静かな夜だった。 鹿の声を遠く聞きながら地図を眺め、等高線を辿り一日を振り返る。 稼いだ標高は約2100m。 焦ることも無く、深く山を楽しむことのできた納得のいく一日だった。 静かな山は良い。 つくづくそう思いながらシュラフに潜り込むと、あっという間に落ちていた。 第二部の記事へはこちらからどうぞ。 今回も最後までお読み頂きまして、大変ありがとうございました。 ↓励みになりますので、よろしかったら『ぽち』っとお願い致します(^^)/
by yama-nobori
| 2019-02-17 22:19
| 登山 2017
|
Comments(0)
|
最新の記事
検索
記事ランキング
カテゴリ
全体 登山 2017 登山 2016 登山 2015 八ヶ岳 写真 ギア 日常 キャンプ 南アルプス 北アルプス 中央アルプス 丹沢山系 登山 2014 登山 2018 登山 2019 信州百名山 登山 2020 未分類 タグ
以前の記事
2020年 07月 2020年 06月 2020年 02月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 最新のトラックバック
ブログパーツ
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||