上河内岳は最高だな。 残しておいた最後のビールを飲んだ。 目指す茶臼岳方面はガスが湧き出していた。 百名山から外されているためか、シーズン中も登られることの少ない不遇の一座が上河内岳である。 肩からは僅かにCT20分。 ぜひ寄り道されることをおすすめする。 少し進んでは、何度も何度も振り返る。 奇岩、竹内門。 中でも、この先の「亀甲状土」からの眺めが一番の楽しみだった。 あら...ガスなのかぁ。 凍結や融解を繰りした結果作り出される周氷河地形である亀甲状土。 同じものは光岳のセンジガ原でも見ることができる。 運が良ければここに幻の池が出現し、水面に上河内岳を映し出す。 12:00、「茶臼岳」(2604m)登頂。 画になる稜線風景だ。 ここまでペースも良く、予備日もあることから光岳へも十分届く。 しかし天候が崩れる予報が出た上に 大人しく下山して、予備日は観光にあてる事に決めた。 聞けば、石垣の補強工事を行っているとのことだった。 なんとビールが売られていたのである。 冬季小屋に泊まり、残った食料を消費することに決めたのである。 夕方になると作業を終えた方々が登ってきた。 同じく二階で寝泊まりしているらしい。 少し言葉を交わすと彼らは私から離れ、食事を終えた後も静かに過ごしてくれていた。 登山者の私に配慮してくれたのだろう。 「思い出ノート」に良く知った名前を見つけ、なんだか嬉しくなってシュラフへ潜り込むと、あっという間に落ちていた。 03:30、茶臼小屋を後にする。 音楽を鳴らし、大声で歌いながら進んで行った。 雨降りの椹島へ入山してから5日ぶりの下山であった。 温かい食事は味わう余裕も無いほどにがっついて食べた。 帰宅する旨を家族に伝えると、『あ、そう。』という、いつもと変わらぬ返事があった。 千枚岳、光岳、鳥小屋尾根...。 しかしその分、時間を気にすることなく山に身を置くことができた。 下山からの数日間、毎朝03:00になると目が覚めた。 そこが布団の上だと気がつくと、安心するのと同時に少し寂しく思った。 再び瞼を閉じると、山を歩く自分の姿を繰り返し観た。 山で最もか弱いちっぽけな生き物が、のそのそと巨大な山塊を這うように歩いている。 不思議なことに全てが鳥目線、空からの見下ろした映像だった。 夜の漆黒に見えない掌を探す。 闇。 獣の気配。 孤独。 風の音。 忍び寄る冷気。 研ぎ澄まされる五感。 そして累々と連なる荘厳な峰々と朝日の力強さ。 山は招く。 山に登らせてもらう。 山に生かされているという実感と感謝。 人の温もり。 南アルプス南部縦走。 山に抱かれた素晴らしい山旅だった。 おしまい。
by yama-nobori
| 2019-02-10 21:56
| 登山 2017
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