第三部の記事へはこちらからどうぞ。 今にも朽ち果ててしまいそうな外観は相変わらずだが、床が張り替えられており内部は快適だ。 荷物を放り出して横になっていると、往生際の悪い考えが頭に浮かぶ。 体調が戻ったら聖岳へと向かい、山頂で幕営... しかしアルコールを入れラーメンを作っていると、急ぐことが馬鹿らしく思えるようになった。 この場所で光の移ろいを眺めよう。 多少の遅れは、明日取り戻せば良い。 それに飽きると、担いできた潤沢にある南アルプスの水で珈琲を淹れ、カップ片手に岩の上でただ山を眺めていた。 山はやがて残照に浮かび、空には満天の星空が広がった。 明日は暗い内に出発しよう。 そして、聖岳で「その時」を迎えよう。 「出る」ことで有名な小屋だ。 智恵子さんからも「あの小屋の夜は騒がしいかもよ。いひひ。」と不吉なことを聞かされた。 しかし私のイビキが彼等を凌駕したのだろうか。 派手な「家鳴り」を期待していたが、今回も特に何も起こらなかった。 03:30、快適だった兎岳避難小屋をあとにする。 深く良質な睡眠をとることができたのだろう、体が軽かった。 トラバース気味に登り鞍部に立つ。 その場所からは、群青に浮かぶ漆黒のシルエットがやたらと大きく見えた。 逸る気持ち抑えつつ、ゆっくりと足を前に出す。 呼吸の音すら邪魔だった。 静寂こそが、その瞬間に相応しいと思えたからだ。 足首の角度がふいに楽になるのを感じ、心静かに視線を上げた。 すると、耳が痛いほどの静寂の中に忘れ得ぬ山頂標が立っていた。 赤石山脈の盟主からは、聖岳に光る小さな灯が見えただろうか。 すっかり遠くなった頂に人の温もりを探したが、残念ながら見つけることはできなかった。 奥聖岳方向に視線を向けると、おぼめく光が時間を分けているのが見えた。 荷物を残し山頂を離れる。 身軽になると駆け出さずにはいられなかった。 次にこの場所に立つのはいつになるのだろうか。 素晴らしい快晴の中、小気味良く足が出る。 聖岳はあっと言う間に高くなっていた。 今シーズンも多くの登山者達の拠り所となったのであろう。 ひっそりとした佇まいに、過ぎた夏の喧騒を想った。 誰もいないことが不自然に思えるほど、穏やかな朝だった。 右手には「日本のチロル」と称される「下栗の里」。 なんという山深さだろう。 向かう先には紅葉に彩られた上河内岳。 目に映る全てのものが清らかで美しい。 雷鳥達の声を聞きながら上河内岳ノ肩に立つ。 喜び一杯に山頂に向かう。 南部で一番好きな山の頂に、今年も立つことができた。
by yama-nobori
| 2019-02-07 21:14
| 登山 2017
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