「そろそろあるはずですよ。」 鳳凰小屋支配人A氏より打診があった。 予定日の天気図は申し分なし。 山よりも楽しみな「あれ」を求め、車中泊で翌朝に備えた。 車は山道具だ。 これまでに何度この車で寝たんだろう。 息子くんと同い年ということもあり、こいつには特別な愛着があった。 しかし寄せる年波には勝つことができず、この日がついに最後の車中泊となったのである。 今ではすっかり御座石ルート(燕頭山登山道)を「通勤路」と呼ぶようになったが、この時点(2017年)ではまだ「登山道」。 息子くんにとっては3度目の鳳凰山だった。 紅葉の頃にはまだ早く、特にこれと言って見るべきものは無い。 しかし森の香りと煌めく木々の緑がたまらなく心地良い。 登り始めて少しすると、「カツラ」の大木が生えている。 近所の変態T氏から「この木を見ると下りてきたなと思うんですよ。」と言われてから、私もすっかりこの木を目印にするようになった。 平日と言うこともあり、山は大変に静かである。 このまま誰にも会わないままなのかと思いつつ登って行くと、人が下りてきて驚いた。 「あ、Cちゃんだ!」 彼女は鳳凰小屋の小屋番さん。 資金を稼いだ後は世界中を自由に回る、芯のしっかりとした博学広才な女性である。 いわば小屋のお母さん的存在であり、野郎どもはいつも彼女に助けられている。 「またあとでね!」 腰を下ろして一息入れていると、二人目の小屋番さんが下りてきた。 歩荷頑張ってね! 今では楽々と登るようになったが、まだしんどそうに足を進める息子くんの写真が懐かしく思える。 同じ山を繰り返し登るようになると、不思議な事に疲れなくなる。 私にとっては鳳凰山、そして北岳がそれに当たる。 旭岳からはやや急登だ。 ひとしきり汗を搾り取られると、やがて笹に覆われた広いピークが現れる。 08:20、燕頭山。 ここまで登ってくることができれば、目指す鳳凰小屋までは、さほど遠くは無い。 一休みした後、明るい登山道で進んで行く。 ようやく開けた展望地からは、ガスを乗せた地蔵岳への尾根が見えているだけだった。 「高校生になったら山小屋で働きたい。」 11:13、鳳凰小屋到着。 支配人A氏の歓迎を受けた息子くんが笑顔になった。 この日、到着が5時間20分もかかったのには訳がある。 芳醇な香りを放つ、「あれ」を採取していたからだ。 半分はお土産にして、残りはみんなで食べよう。 夕飯が楽しみだね。 ここ鳳凰小屋には鉄の序列がある。 まず「ポチ」から始まり、 支配人やオーナーに至っては雲上人だ。 そんな雲上人A氏がハナイグチを食べさせてくれた。 歯ごたえがあり実にうまい。 その後、雲上人A氏と小屋番Aくんが昼食を用意してくれた。 野郎四人で食べた雑多な鍋ラーメンがこれまた美味かった。 少しすると歩荷を終えたCちゃんとYちゃんが戻ってきた。 華奢なのに頑張るね~。 ポチも見習わなきゃね。 鳳凰を代表する貴重な高山植物、ホウオウシャジンが庭を飾る。 私は特にやることもなく、陽だまりの中を撮っていた。 とっても良い雰囲気だね。 今年も良いメンバーに恵まれて良かったね、支配人。 腰が入っていなくて全然駄目だけど、初めての薪割りが楽しかったんだよね。 売店の仕事はもう覚えたね。 登山道や植物の名前もお客さんに聞かれるから覚えなきゃ。 17:00、夕食の配膳とお代わり係りを手伝いました。 小屋番さん達に褒められた息子くんが嬉しそう。 私は弁当作りを手伝った。 食材の配置や箸の向きなど、細かいルールがあることにただ感心。 食器の片付けが終わるとようやくスタッフの食事となる。 支配人が作ってくれているのは松茸のお吸い物だ。 人生初となる松茸のホイル焼きにかぶりつく息子くん。 夢が叶って良かったな。 毎回少し味の違うカレーがこの日も美味かった。 19:30、夕食が終わり発電機が止まるとランプに火が灯される。 慣れない仕事に疲れてしまったのか、息子くんは早々に布団へ潜り込んだ。 朝食準備、布団の配置など、支配人が明日に向けての指示を出す。 明日はかなり忙しいようだ。 一日の終りにみんなで飲んだ酒が美味かった。 みなさんお疲れ様。 05:20、おはよう。 よく眠ってたね。 地蔵岳しか登ったことが無い息子くんと鳳凰三山を登ることにした。 戻ってきたら手伝うね。 行ってきます! 振り返ると、森に佇む青い屋根の小さな小屋が見えた。 山の中に戻る場所がある。 そのことが、たまらなく幸せな事に想えた。 第二部の記事へはこちらからどうぞ。
by yama-nobori
| 2018-11-18 17:42
| 登山 2017
|
Comments(1)
Commented
by
ねも
at 2018-11-22 09:16
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お久しぶりです。
息子さん、大活躍ですね。ゆたかさんも誇らしく頼もしいのではと推測します。 鳳凰小屋は私の山人生で初めての山小屋です。終わりのほうのランプが灯った小部屋(中央にこたつ)の画像、とても懐かしい! なぜか夕食後ここに連れ込まれ、小屋関係者とトランプだったかゲームだったかしました。山小屋ってこんなフレンドリーなんだと新鮮でしたよ。37年経っても(笑)ほとんど変わらないようにみえます。
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