白砂青松ここに極まれり①@離山 2017.07.08(土)~09(日)



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離山(はなれやま)は、南アルプスの藪山の中で最も難易度が高いとされている、標高2,307mの山である。

地蔵岳(鳳凰山)の北側へ派生した尾根上の離山は、北側からⅤ峰・Ⅳ峰・Ⅲ峰・Ⅱ峰・Ⅰ峰(最高点)・山頂からの山群で構成されており、各々のピーク間に鋭いギャップを有している。
ザイルで確保すべき通過点は数多く、藪山に対する知識と経験は当然の事ながら、十分な体力と最低限のクライミング技術が必要となる、総合力を試される難峰である。

今回の登攀に使用したのは、石空川精進ヶ滝の駐車場付近から北の尾根を登り熊小屋を経由する、累積標高差約2300mの難ルートだ。
当然の事ながら登山道などは存在せず、ネット上の記録も僅かしか存在していない。





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この山の存在を知ったのはいつの頃だっただろうか。
幾度となく足を運んでいる甲斐駒・鳳凰のすぐ近くにあるこの未踏峰は、長い間頭の片隅に居座り続けた憧れの存在だった。

※鳳凰山御座石ルート燕頭山付近より離山北尾根を望む



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しかし今回の相手は想いの強さだけでは到底挑む事など許されない難峰中の難峰だ。
心身共に充実していなければ、登頂はもとより事故を引き寄せる。

赤抜沢ノ頭付近より離山山群を望む



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新緑の輝きが落ち着いた頃、今年も離山が気になり始めた。
踏破できなくても良い、調査のつもりで歩いてみようかとソロでの山行を考えていた時、肩の小屋から下りてきたばかりの近所の変態T氏から誘いを受けた。
これほど頼もしい相方はいない。
離山を提案したのは、至極当然の事だった。

登山口となる精進ヶ滝の駐車場へ前入りし、地形図を広げて軽く飲んだ。



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04:40、大武川の支流、石空川(いしうろと)に架かる吊橋を渡る。



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橋の上からは見慣れぬ角度からの燕頭山が見えており、その新鮮な山容に盛り上がった。



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精進ヶ滝のお立ち台へ行くために架けられたのだという精進ヶ滝林道の地蔵大橋が良く見えている。
廃道となって久しい現在、あの橋を訪れるのは一部のマニアだけだろう。



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橋を渡り終えると精進ヶ滝へと誘う道標が現れる。
我々はその真逆方向へと少し進み、左手の斜面から取り付いた。



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標高約1000m。
長い一日が始まった。



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開始早々からただ事ならぬ急斜面である。

足元が脆く、かなり注意していても落石を起こす。
直線上に並ばぬよう各々のルートで上げて征く。



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あまりの斜度の強さにふくらはぎがもたずに何度かジグを切った。



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ウォーミングアップが出来ていないこともあり、百戦錬磨のT氏も苦しそうだ。



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しばらく忍耐の登りは続き、標高1250mでようやく斜度が緩むと明瞭なマーカーがあった。
前方からの水音に、梢の先へと目を凝らす。



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覗きこむと、遠く中央本線の車窓からも眺めることができるのだという日本の滝百選に名を連ねる精進ヶ滝が、天空の切れ目から雄大に落ちていた。



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朝陽の射し込む森が美しく、良く足が出るようになった。



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かつての仕事道なのであろう。
落葉に埋もれた古いワイヤーがあった。



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標高が1400mを越えると景観が一変し、苔むした巨岩が目立つようになる。
突然現れた異質で神秘的な光景には思わず足を止めてレンズを向けた。



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巨岩帯を過ぎると森が深みを増した。
無数の鹿糞が落ちており、ヌタ場や熊の爪痕がそこかしこにある。



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地形図上の1499からは再び斜度が強くなり、標高1600mを過ぎた辺りからは笹が足元を鳴らすようになった。



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鹿道を借り上げて行く。



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広尾根の急登が続く。
時折吹き抜ける風が心地良かった。



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しばらく寡黙に登りを続けていると、やがて前方が明るくなった。



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07:40、開けたピークに立った。
鬱蒼とした夏草の中で、時間に埋もれた実に良い佇まいの三角点を発見した。



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最初の目標としていた「熊小屋」(1,898m)に到着したのである。



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三角点(点の記)を調べることのできるサービスがあることをご存知であろうか。
下記サイトを利用することで、基準点の観測等の年月日や当該点に至るまでの道のり等を記した「点の記」の作成年月日を確認することができる。
記録によれば、熊小屋三角点が設置されたのは明治37年(1904年)。
材質は花崗岩である事がわかる。

国土地理院のサイトへはこちらからどうぞ。
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西側やや下方へ移動すると見事な展望があった。



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見えていたのは黒戸山を従えた甲斐駒ヶ岳。
なんとレアな角度からの眺めであろうか。



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が登った日は生憎光が良くなかったため、最近熊小屋に登った友人から写真を借りた。
摩利支天東壁、サデの大岩、赤石沢奥壁、ダイアモンドフランケが、遮るものなく見えている。
中でもかつての甲斐駒ヶ岳登拝路、御中道(八丈バンド)の明瞭な眺望には感嘆の溜め息が漏れた。



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T氏はこの「熊小屋」をいたく気に入ったようでなかなか動こうとしなかった。
30分以上は過ごしたであろうか、重い腰を上げたあとも、度々「く、ま、ご、や」と呟いてはほくそ笑んでおり、実に不気味である。



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熊小屋からは尾根伝いにやや下げる。
ここまで藪を漕ぐような場面も無く、危険箇所も現れなかった。



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下がり始めると、まだ遥かに遠い第Ⅴ峰(2200m)が梢の中にあった。



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第Ⅴ峰までは連続した小ピークを越えて征く。



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尾根上を進むため道迷いの不安は無い。
しかし脆い岩と立ち枯れた木が多く、体重を預ける対象を選ぶことに神経を使う。



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稀に西側の窓が開く。

私は宮ノ頭、ツヅミ、そして黒戸山が気になって仕方がなかった。
急登として全国的に著名な黒戸尾根ではあるが、その山名由来となった一座を踏んだ登山者は、さほど多くはないだろう。



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やがて痩せ尾根が増え始め、標高1900m程まで登ってくるとシャクナゲが見られるようになった。



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尾根は再び広く、そして緩くなった。

気軽に訪れることのできる山では無い。
予定よりかなり遅れてはいたが、最初で最後になるかもしれないこのルートをたっぷりと時間をかけて楽しむことにした。



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地形図上の1914から、目指す第Ⅴ・Ⅳ峰を仰ぎ見た。
左奥は地蔵の露岩ピークだろう。

要所要所で行ったT氏との山座同定がとても楽しかった。



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左手が切れ落ちた痩せ尾根を進むと本格的な登りが始まった。
やや藪の煩い通過点があったが、軽く掻き分ける程度で抜けることができた。



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標高約1950m。
ここまで危険箇所無し。
マーカーの類いは一切見かけなくなる。



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岩小屋のような巨岩を巻く。



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再び藪になったが距離は短くすぐに抜けた。

次に現れたやや危うそうな小ギャップを見下ろしルートの確認を行った。
しかし近寄ってみると、十分な足場のあるがことが分かり安堵する。



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T氏に続き、岩肌に沿って登り始めた。
と、その時だった。



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私がホールドに使っていた岩の僅か20cm程右側の岩盤が、高さ2m幅1m程にわたり突然崩落したのである。
山肌を大きくえぐりながら轟音と共に谷底へ崩れ落ちていくその様を見つめていた私は、何故か冷静で他人事のように上の空だった。



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先に通過を終えていたT氏が「やばかったっすね。凄い迫力でしたわ。」と頭上から声を落とすのを聞き、ようやく自分の身に起きた危険と幸運とに胸をなでおろした。



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それからはやや慎重に、しかし萎縮することの無いよう高みを目指した。



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そして結果はついてくる。



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10:40、第Ⅴ峰(2200m)到着。

ガスが増えてきたようだ。
しかし端から展望には期待していなかったため落胆することは無かった。
雨に降られること無く、涼しく歩く事ができれば良いと考えた我々にとって、今日は絶好の登山日和でもあったのだ。

第Ⅴ峰ピーク部が狭いこともあり早々に立ち去ると、この日最初の核心部がついに現れた。



第二部の記事へはこちらからどうぞ。


今回も最後までお読み頂きまして、大変ありがとうございました。

おしまい。

↓励みになりますので、よろしかったら『ぽち』っとお願い致します(^^)/


by yama-nobori | 2018-06-20 07:30 | 登山 2017 | Comments(1)
Commented by 友人T at 2018-06-20 20:59 x
いや〜いいっすね!やっと読めた!
落石点、、どこっすか?写真じゃ分からない(^◇^;)
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