当初計画は小金沢連嶺でのテン泊山行だった。 しかし、既に6/7(2017年)に梅雨入りが発表されていた関東甲信越は、予報通り雨の週末を迎えるようだ。 数日前から準備をすすめ、せっかく面白いメンツが揃ったと言うのに... 諦めきれず無い知恵を絞りに絞り、ようやく計画がまとまった。 往生際の悪い我々が向かった先は、小金沢連嶺の末端部。 テン泊は中止とし、湯ノ沢峠避難小屋を利用して この避難小屋には電気が通っており、電灯が点く。 すぐ近くにはバイオトイレが整備され、水場まで2分という使い勝手の良さが嬉しい。 そしてなにより、林道が通じているため車で行くことができてしまうのである。 ここならば、どんなに雨が降ろうと大勢に影響はない。 好立地であるため登山者に限らず利用者は多い。 標高の高い位置から山岳反射を狙うアマチュア無線家の利用も多く、私も泊まり込みでコンテストに参加して波を出していた時期がある。 特にツツジの季節には、白谷丸から富士山を狙うカメラマン達が大勢利用する。 梅雨の最中ということもあり、我々だけの貸し切りだった。 メンバーは、酒さえあれば幸せなY姉御、自称寡黙な下戸男K氏、そして我々親子の4人である。 早速荷物を運び入れ一杯始めていると、やや遅れてK氏が到着となった。 車というメリットを最大限活かして運び入れた大量の宴会セットに「こりゃひどいな。」とK氏が呟いた。 鍋を囲んで他愛の無い話を楽しんだ。 雨音を聞きながら飲む酒が実に美味い。 自称寡黙なK氏が饒舌に語り、それを飄々と受け流すY姉御との掛け合い漫才が面白い。 息子くんはボードゲームを持ち込んできていたが誰からも相手にされず、一人寂しく本を読んでいた。 早く飲めるようになるといいのにな。 翌日の天気予報は梅雨時らしく微妙な内容だった。 そこで外の様子を見に行くと雨が止んでいた。 う~ん、ガッスガスのビッショビショだねぇ。 やっぱり明日に賭けてみようか。 少しすると、とても感じの良い二人組の登山者が現れた。 翌朝は早朝から小金沢山まで登り、ピストンするのだという。 店を広げまくっていた我々に毒づくことも無く、逆に遅い時間に申しわけないと頭を下げられ、恐縮するばかりであった。 ここからは増えた仲間と共に、引き続き楽しく飲んだ。 明日の天気はどうなのだろうか。 行程は緩くCTも短い、よって雨であっても登頂するのは容易である。 しかしそんな山登りはちっとも楽しくない。 翌日も雨が続くようならば、山は別の機会にしたほうが懸命だろう。 そんな事をぼんやりと考えながら、目覚ましはセットしないままでシュラフに潜り込んだ。 翌朝目覚めると彼らの姿は既に無かった。 早立ちに備え前夜のうちに十分な準備を整えておき、静かに扉を開けて出ていってくれたのだろう。 その配慮に人柄の良さを見た。 外に出ると雨は止んでいた。 南アルプスの下部も良く見えている。 うん、思っていたよりもずっと良いね。 お喋りを楽しみながらゆるゆるとカヤトの中を抜けて行く。 やや登り、登山道が向きを変えればすぐに山頂だ。 それがわかると例の如く息子くんがダッシュした。 うわ~南アルプスが見えてるよ! 山座同定が全くできないY姉御に端から山名を教えてみたが、いつものように全部、仙丈ヶ岳でいいやと言うことに落ち着いた。 ちなみにこの日、僅かに見ることのできるはずの仙丈はガスの中だった。 少し季節が進めば夏草に花達が彩りを添え、風が秋色に薫るようになれば虫の音が黄金色の山肌を包み込む。 さして標高は高くはないが、地形的に雲海の発生しやすい小金沢連嶺~南大菩薩連嶺は、通いつめたお気に入りのトレイルだ。 ソロで歩いていた山は、やがて友人や息子くんと歩くようになった。 あらゆる尾根を歩き、幕を張り、巡る季節を楽しみもした。 次にこの場所を歩くのは、誰とどの季節になるのだろうか。 車まで戻ると昨夜の二人組と再会した。 ガスの流れる様が、素晴らしい山行の思い出になったようだ。 その後つながったSNSでの彼らの投稿を見るたびに、あの配慮ある見事な早立ちを思い出しては襟を正している。 またひとつ、大好きな場所に想い出が増えた。 下山後は天目山温泉で汗を流し、渋滞に捕まることなく帰宅した。 山は晴れてなんぼだと思っている。 トレーニングならいざ知らず、雨でも楽しかったなどと負け惜しみを吐く気はさらさら無いので、そんな日は山には向かわない。 悪天でも決行される計画に巻き込まれるようなつまらない付き合いも、今ではすっかり無くなった。 加えて天気が読めない程の日数を山に籠もるような山行は生活環境が許してはくれず、装備の差が結果に直結するようなシビアな山とは元々縁が無い。 だから高機能な幕やシュラフは必要無いし、高額なレインウェアにも用事は無い。 本記事を書いている2018年、関東甲信越地方は既に梅雨の真っ只中にある。 数日前、予定していた計画は残念ながら雨に流されてしまったが、大蔵高丸同様に急遽立ち上げたサブプランでは、雨に打たれること無く楽しい一日を仲間達と過ごすことができた。 楽しい思い出となったのは、やはり先ず、天候によるところが大きいのだと思う。 無料の予報サイトがいくつもあるが、国内の有名どころの内容は予報ではなく『占い』だと思っている。 だから天気については随分と勉強をした。 自分の読みで外れるならば納得することもできるからだ。 フットワークの軽い、自立した登山者と歩く山は実に楽しい。 ソロ山行こそ登山だと考えていた時代も確かにあったが、最近ではそれぞれにスタイルの確立した他人に依存しない仲間との登山が楽しくて仕方がない。 登山の楽しさを推し量るのに、技術的な難しさや標高、ましてやブランド山名などは全く必要ないのだと、最近つくづく思うようになっている。 しかし、焼けぼっくいに火の点くことがたま~にある。 次回、南アルプス藪山の中で最も手強いとされている、とある山の記事をお届けしたいと思う。
by yama-nobori
| 2018-06-16 08:58
| 登山 2017
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