激藪の弘法小屋尾根①@間ノ岳 2016.10.15(土)~16(日)



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間ノ岳(あいのだけ)は、赤石山脈北部にある標高3189.5m、国内第三位の高峰である。

「北岳」南方に位置した「中白峰」(3055m)のやや北方から始まった標高3000mの稜線は、間ノ岳の南方までその高さを保ち続ける全長2kmに及ぶ国内最長のスカイラインである。
白峰三山と称される北岳・間ノ岳・農鳥岳を結ぶこの天空の道は、南アルプス北部を代表する人気のプロムナードだ。

当エリアを遠望したとき、広範囲から最も同定することのできるのがこの間ノ岳だ。
しかしその堂々たる山容をよそに、同じ標高である奥穂高岳に比べると、著しく知名度の低い不遇の一座であると言えよう。
その最もたる理由は、山名由来が指し示す通り、秀峰二座の「間」に挟まれていることにある。
稜線そのものの標高が高いが故に、さほど標高差を感じることなく容易に登頂することができてしまうのだ。
縦走路上にある単なる通過点、もしくは三峰岳への分岐点として、「ついで」感覚で登られる山であるという認識を持っている登山者が大半であり、この一座のみを目指す者はさほど多くはないのではなかろうか。

しかし多面的に捉えることでキラ星の如く魅力を放つ山は数多い。

東側に派生した二本の長大な尾根は起伏を連ね、身をくねらすようにしながら谷底へと落ちて行く。
その急峻な尾根達は野呂川の支流である細沢を挟みこみ、南アルプス最大規模の細沢カールを抱く。
それぞれの尾根を「尾無尾根」と「弘法小屋尾根」と呼ぶ。

扉の一枚は、「ボーコンの頭」から撮影したモルゲンに染まる間ノ岳である。
センターのやや低い位置から派生しているのが、今回ご紹介させて頂く弘法小屋尾根となる。





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本来なら、引き続き梅雨時のヤマビルにまみれた山梨百名山の記事を書き進めたいところではあったが、変態仲間が早く書けとうるさいので久しぶりに自分なりに納得の行く登山ができたので、記憶の新しい内に記事にすることにした。
そんなわけで、超ご無沙汰の標高3000m超えの記事となる。

さて、広河原への道が開かれる以前には、夜叉神峠から鷲住山を経由し弘法小屋尾根で間ノ岳を目指すこのルートがよく利用されていたようだ。
しかし広河原への林道が整備されるとこの登山道は廃道となり、現在では冬季バリエーションとしての紹介と、藪漕ぎマニア達の記事をネットでちらほら見るだけである。


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この尾根に目をつけたのはかなり昔の事になるが、なかなか踏ん切りがつかずに数年が経っていた。
しかし今年になるとやや体力にも自信が持てるようになり、「今年の夏こそ挑戦するぞ」と変態の教科書愛読書の僅かな記述と他の情報などを元に、地形図に線を引いたのは初夏の頃であった。

弘法小屋尾根の踏破には天候の安定が欠かせない。
しかも渡渉がある為にその日だけが晴れれば良いというものでもない。

しかしそんな願いも虚しく、惨憺たる天気図にうんざりし続けたままで八月九月が過ぎ去った。
悶々としたままで十月を迎えると、北アルプスからは降雪の知らせが届く。
例年では十分に遅い知らせではあったが、私には早すぎる知らせに焦りがつのり半ば諦めかけていた。

しかしその翌週のことである。
それまでの鬱積を吹っ飛ばすかのように、日本列島上に三つ玉の高気圧が並ぶ極上の天気図が現れた

「ついに来た。今年のラストチャンスだ。」

今回の山行にあたり、変態登山仲間10名程に声をかけた。
しかし数名は本当に予定があったようではあるが、ルートを伝えた途端、何故か予定のできたやつら友人が大半だった。
予定があるはずの仲間がSNSにアップした、同日程の美しい山岳写真には、後日「ひどいね」ボタンを押してやった。



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ソロで事故を起こすといろいろと面倒なことになる。
しかし今回の山域には変態山仲間であるT氏の働く「肩の小屋」がある。
トラブルが起きたとき、彼以上に頼りになる存在は他にはいない。
今回の計画を伝えるため連絡してみると、休暇で山をおりており、雲上の変態では無く近所の変態に戻っていることがわかった。
そして短い休暇を終え、再び私の入山日に小屋に戻るとの話である。

ゴミ溜めのような街にある職場を定時で脱出し、最寄り駅でT氏をピックアップ、奈良田へ到着したのは22:30だった。
久しぶりの再会で山談義に花が咲く。
酌み交わした酒が実にうまかった。

この後当然眠ることになったのであるが、T氏の就寝スタイルがあまりに斬新だった。
載せるなよと脅かされた本人の名誉を尊重し写真の掲載は行わないが、数時間前に抜け出した職場付近の高架下で同じスタイルで寝ている人達を幾人もみてきたばかりだ。
利尻岳の山頂で幕無しで眠る男は伊達ではない。これでは道端に転がっているミイラだ。将来の予行練習でないことを切に願う。
彼は明日、広河原まで運ばれて来たでかいギターを拾い上げ、標高3000mにある肩の小屋に担いで行くのだそうだ。
何人の登山者に目撃されるのだろうか。
ヤマレコに「変態」の目撃談が掲載されているようなら是非教えて頂きたい。

明けて5:15、山梨交通のバスが到着となる。
私はいつものノウハウを駆使して一番乗りで乗り込んだ。
待ちに待った晴天に、この時期としては大入りだ。


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定刻をやや過ぎた05:35、奈良田を出発。
2分程走り、奈良田駐車場で更に登山者を拾い上げるために停車となる。



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盛夏の頃ならとても少ない待ち人の列であるが、この日の増発便は出なかった。
結局30名程を乗せきることが出来ずに、バスは広河原目指してスタートすることとなった。
取り残された彼らの入山は、2時間以上は確実に遅くなる。
これが恐い方には芦安から入山することをおすすめしておく。



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しかし私の下りるバス停はこの奈良田側にある。
歩くといつも2時間以上かかる道のりを、心地よい女性車掌さんの車内アナウンスを聞きながら、わずか30分足らずでの到着となった。

バスって凄いのね...。


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5:59、山友K氏の同僚であるこの車掌さんに、入山したことの伝言をお願いしバスを降りた。
「こいつは何でこんなところで降りるんだ?」という登山者達の視線を浴びつつ、T氏とはここでお別れとなった。



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下りたのは「野呂川発電所」(標高1128m)。
池山吊尾根の登山口である「あるき沢橋」の一つ手前のバス停である。



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バスを見送ったあとはひとりぽつんと取り残され少し寂しくなった。



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まずは、たった今バスで渡ったばかりの橋をやや戻る。


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荒川はその名の通り大変な暴れ川であり、古い時代から道路と河川工事が延々と続けられている。
弘法小屋尾根への取り付き点は、この荒川右岸に付けられてる堰堤工事用道路の終点近くにある。

06:02、ゲートを通過した。


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歩き始めてすぐ、山間の遥か奥に目指す間ノ岳の稜線を見ることができた。
気の遠くなるような光景だ。



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振り返れば「鷲ノ住山」(1534m)が特徴的だ。
現在でも利用者の多い、夜叉神峠とこちらの林道とを繋ぐかつてのメインルートはあの山の頂きを通る。



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林道は斜度も緩く歩きやすい。



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6:19、左岸の「荒川第二ダム」に落ちる落差80mの「煙滝」を眺める。



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やがて舗装路は終りとなった。



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6:29、ついに最初の関門である堰堤が現れる。



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この堰堤が完成したのは一昨年のことであるようだ。



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それ以前はなんとか人が越えて行ける構造であったが、今ではあの穴をくぐり抜け向こう側に出なければならないと聞かされていた。
しかも誰がかけたのか分からないロープが一本かかっているだけだという。

しかしよく見るとハシゴがかけられているではないか。
やった、これは楽勝だと思い歩み寄った。



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なんだこれは....

水量はさほど多くないものの、いきなり流れの強い渡渉が待っていた。
しかもあの梯子の傾きはなんなんだ。


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当初の予定ではロープで登り降りを繰り返し、荷物を数回に分け、あの上の穴に放り込み堰堤を超えるつもりであった。
しかし想像していたより遥かに流れが強く、冷たい水に何度も耐え続ける自信が無くなった。

よし、一気に行くか。


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登山靴をザックに押し込み渡渉を開始する。



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ロープや梯子の強度を確認しているような余裕は無い。

あまりの水の冷たさに梯子に飛びついた。
細く斜めの足場が辛い。

梯子の強度に全てをかけ体を押し上げる。


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そしてやっとの思いで穴に荷物を投げ入れると、しばらくへたりこんでしまった。



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この穴抜けも地味にきつい。

中腰のままでザックを引きずりながらの移動である。
足元には泥と鋭利な岩が堆積しており力が入らない。

沢靴くらい持ってくればよかった....



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ひぃひぃ言いながら穴を抜けると、次に待っていたのは川幅が狭くなり水深の深くなった第ニの渡渉であった。

こちら側にはロープなどは無く、水深がわからない。
穴の縁に掴まりながら恐る恐る体を下げて行くと、体が流されながらも太腿の水位で足がついた。

足を滑らせたら先程の堰堤手前に流される。
感覚の無くなった足で慎重に川底を選ぶ。



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これを越えると更に第三の渡渉がある。
6:52、もうすっかり感覚の無くなった足でこれをようやくの思いで渡りきった。



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外気温は4℃。
ズボンはもとより下着までを濡らし、すっかり冷え切った体で荷物を放り出した。



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弘法小屋尾根取り付き点は目の前だ。
標高は1300mである。


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おそらくこれでも水量は少ないのであろう。
増水時の渡渉は厳しい印象だ。

ここが最後の給水ポイントとなる。
5L取水したが、今回は本気で軽量化を行ったこともあり22kgで収まった。
アルコールはビールとサワーで1L、ワインは720mlしか担いでいない。
これで今回の気合の入れようがお分かりいただけることだろう。



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越えてきた堰堤を憎々しく眺めながら湯を沸かし、冷えた体に熱いコーヒーを流し込む。

朝食を食べ一服し、靴紐を締めなおす。
何度も読んできた地形図を再度確認しヘルメットをかぶった。

実はこの日、やや体調が悪かった。
何かあればすぐに諦めて下山するよとT氏に伝えてバスで別れた。
しかしこの渡渉を再び行うくらいなら何が何でも登ってやろうと心に決めた。

さあ、行ってみようか。
憧れ続けてきたあの弘法小屋尾根へ!


第二部の記事へはこちらからどうぞ。


今回も最後までお読みいただきまして大変ありがとうございました。


< 私を急かす変態山友のみなさんへ >
 第一部がこんな取り付き点で終わってしまい本当に申し訳ない。
 でもね、疲れてるんです。
 仕事忙しいんですよ。
 駄文だって時間がかかるんです。
 こんな記事あてにしてないで自分で行ってきてくださいな。
 そもそも断ったのお前らじゃね~かヽ(`Д´#)ノ


↓励みになりますので、よろしかったら『ぽち』っとお願い致します(^^)/


by yama-nobori | 2016-10-18 23:30 | 登山 2016 | Comments(2)
Commented by haizi at 2016-10-19 22:20 x
ゆたかさん 先日はお疲れ様でした(^^)あの時はせっかくお誘い頂いたのに、申し訳なかったです<(_ _)>でもね。。やっぱり行かなくて良かった!!!私がご一緒してたら、間違いなく流され即救助要請(笑)ゆたかさんにおんぶしてもらわなきゃ、あの沢絶対渡れません(;^ω^)だいたいこの時期に裸足なんて、無理無理💦ダイバースーツ着込まなきゃ(笑) いやぁ~それにしても取り付き前からこの凄さ!ハードなコースですね~。ソロで果敢に挑んだゆたかさんのこの後の大冒険、楽しみにしていますょ~~!!(^O^)/
Commented by yama-nobori at 2016-10-30 22:03
> haiziさん

あ、私の誘いを断ったHさんだw
お返事遅くなり申し訳ない!
でもお二人の山行もいつも渋くて羨ましく思っておりますぞ。
山小屋も閉まってくれるので、ようやくブランド山にも登れるようになりますねw
また楽しいやつやりに行きましょう!
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