身延山久遠寺奥の院①@七面山と敬慎院 2016.06.14(火)~15(水)



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七面山(しちめんさん)は、山梨県南巨摩郡にある標高1,989mの山である。
日蓮宗の総本山である身延山久遠寺の奥の院にあたる霊山であり、山頂に近い平坦地にある敬慎院には身延山を守護する鎮守神として七面大明神がまつられている。
東側には身延山、富士川を隔て天子山地と対峙し、その奥には美しい富士の姿が浮かぶ。
西側には笊ヶ岳を始めとした、赤石山脈南部・白峰南嶺の山々が連なる。

しかし七面山の魅力は、これらの景観からのみ発せられているものではない。
これほどまでに、「ピークハント」「登山」「トレッキング」などの言葉が不釣り合いな「山」は他に無いようにも思える国内屈指の霊山だ。
私と同じ経験をすれば、誰しもがこの山に登ることに「登詣」(とけい)という言葉を用いるようになるはずである。





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身延山から下山した三日後、その山頂から良く見えていた「七面山」を含む数座に登ることを決め、再び山梨を訪れた。
(身延山の記事へはこちらをクリック)

初日の今日は、この七面山~八紘嶺のピストン、もしくは一度下山してから別の山へと向かう計画だ。
しかし計画とは名ばかりで「表参道から登り裏参道への周回も良いな」「雨畑への破線ルートも面白そうだ」などと、相も変わらず行き当たりばったりの旅である。



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通い慣れた奈良田へと向かう県道を離れ、表参道の「羽衣駐車場」に車を停めた。
無料でありトイレも完備されている。


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地形図しか持っていなかったので、観光マップその代わりに写真を撮った。

山頂までのCTは4時間45分、八紘嶺まで行ったとしても8時間、ピストンした場合は14時間程度で済むようだ。
これなら話半分+αで、10時間もあれば余裕だろう。
さっさと山頂を踏んで、一つでも多くの山に登るんだ。

山頂付近に「敬慎院」(けいしんいん)という名の大きな神社の建つ七面山は、「薬王院」のある高尾山レベルの観光地なんでしょう?



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登り始めるその前に、少し観光もしておこう。

登拝口に程近い位置にある羽衣橋を渡ると「白糸の滝」が現れる。
「徳川家康公の側室・お萬の方が7日間身を清めたとされる」とあったが、その意味するところは理解しないまま、数枚の写真を撮りその場を離れた。



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9:28、標高約490mから歩き始める。
鳥居横にある石灯籠には「元丁目」の文字があった。



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歩き始めると予想通りに良く整備されている。
軽荷であったので軽快に飛ばす。


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昨日まで数日間にわたり強い雨が降っていた。



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そのわりには水はけの良い参道だと思った。

よく見ると、水の溜まりそうな場所には真新しい溝がいくつも掘られている。
この一手間のおかげで、綺麗に水が逃されているのだろう。

いや、これだけの数があれば「一手間」とは言わないか....。

この作業の痕跡は、遠く、敬慎院まで続いていた。



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9:32、「神力坊」。
ここでは無料の杖を借りることが出来る。

石灯籠には「二丁目」の文字。
自動販売機があり、休憩や食事もできるようだ。

やはりここは高尾山か。
そのうち、お土産屋さんでも出てくるのだろうか。
流石にビアマウントはないかな



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雨は上がっていたが天気予報は曇り。
さあ、急いで登ってしまおう。



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それにしても、しっとりとしていて実に良い雰囲気だ。
とても静かな参道に、自分の足音だけが小さく沁みこんで行く。



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やがて数人の白装束の方とすれ違うようになった。

「こんにちは~!」と声をかけると、みなさん揃って「ご苦労さま」と返事をくれる。
少し違和感を覚えながらも「ありがとうございます。お気をつけて。」と見送った。



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一定の斜度を保ちながらの参道は九十九折に続く。



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時々このような休憩所が現れる。
これらは全て、信者の方からの寄進によるものであるらしい。



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9:59、十三丁目「肝心坊」(903m)。
人気もなく静まり返っている。

ビールを飲みたくてしばらく悩んだが、上の方でも買えるであろうと立ち去ることにした。



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次第に斜度が強くなり始めた。

ここまで「坊」以外に平坦地は一切無かった。
七面山への「登詣」は苦行だと表現されるようであるが、なるほど歩き慣れていない方や高齢の方には、辛い修行となるのであろう。

ときおり、心に残る言葉の看板が現れ始め、次の立て札が楽しみになった。



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そしてこの言葉を読んで「はっ」となる。

なるほど、これが信仰の山ならではの挨拶なのか。

次に人に会ったら、きちんと挨拶をしよう。
慣れない言葉を心の中で唱え続けた。

しかしこのあと、誰にも会うことはなかった。
ただの登山者である自分が、なんだか場違いであるように感じ始めた。



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日が射して来るようになると蒸し暑くなる。
そろそろビールが買えるといいな。


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10:20、二十三丁目「中適坊」。
なんて良いタイミングなんだろうかと覗いてみたが、人の気配も自動販売機も無い。



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仕方なく豊富に流れていた湧き水を飲む。
思いの外冷たく、清らかでとても美味しい。


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更に斜度が強まり道は狭くなった。

振り返ると、かつて講中宿で栄えた「赤沢宿」が眼下に小さく見えていた。
いつか宿泊してみたいと考えている小さな憧れの集落だ。

~ 富士の国やまなし観光ネットより抜粋 ~
『赤沢宿は「身延山」と、修験霊山「七面山」を結ぶ身延往還の宿場町として栄えた山あいの静かな集落です。
昭和30年代に現在の車道が通るまでは、七面山に通じる唯一の道として、多くの参詣客がここを通りました。
最盛期の明治~昭和初期には、1日に千人程の宿泊客がいたと言われています。
伝統的建造物群保存地区にも選定されており、江戸情緒漂う美しい街並みを残しています。』



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鳥の声も聞こえてこない静かな参道を登り続けていると、なんだか急に、空気が変わったように感じ始めた。
蒸し暑さはなくなり、しんと冴えた冷たい空気が頬を撫ぜる。



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11:00、三十六丁目「晴雲坊」(1401m)。

この頃になると、ビールだ!お土産物屋のある観光地だ!と騒いでいたアホな私にも、これら「坊」の意味がようやくわかってきた。
「坊」は参詣者を癒してくれる貴重な休憩所であり、高尾山の茶屋などとは全くの別物だったのだ。



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この日は無人であったようだが、「ぜんざい」や「ところてん」が美味しいのだそうだ。
気付けば既に1000m程度は登ってきていた。

信者の方々は「南無妙法蓮華経」と一歩進むごとに唱え続け、この参道を登ってくるのだそうだ。
「坊」で味わう軽食の美味しさは、私のような不謹慎登山者の何倍も素晴らしいのであろう。



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11:30、四十六丁目「和光門」。

ここから山頂にかけての地域は、七面大明神がまします神域といわれる「精進潔斎」(しょうじんけっさい)の聖地となる。
よって肉や魚などの食べ物は一切口にすることはできない。
また、徳の高い僧侶が籠で上がってきたとしても、ここから先は自らの足で歩くことになるのだそうだ。



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精進潔斎のことは後に得た知識である。
この時、ビーフジャーキーやビールなどを持っていなくて本当に良かった....



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和光門を抜け少し進むと立派な梵鐘が現れた。



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延宝3年(1675)の鋳造であるこの梵鐘は、登詣した人が自由に撞けるのだそうだ。

しかしこの時点ではそのことを知らず、怒られるのが恐くて素通りすることにした。
私は未だかつて鐘楼を撞いたことがなかった。
除夜の鐘つきなどは子供のことから一度やってみたいと思い続けている憧れのイベントだ。
帰りにならして逃げてやろうと心に誓い先を急ぐ



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11:30、鐘楼から緩やかに登ると広い平坦地が現れた。

右を向くと、四十九丁目となる「随身門」がある。
どうやら五十丁目である「敬慎院」はこの門の先にあるようだ。



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下りてみようかとも思ったが、ひとまず山頂を踏み、天候次第では八紘嶺まで足を伸ばすつもりであったので思い留まった。
ここまで2時間かからなかったので、やはりCTは甘い設定であるようだ。



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随身門の反対側には逢拝所がある。

「逢拝」とは「遠く離れた所から神仏などをはるかにおがむこと」をいう。
ここでの対象は富士山である。

しかし生憎のガス。
風も強くなってきたため先へと急いだ。



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「七面山山頂」の道標に従い少し進むと、荷揚げケーブルなどの施設が現れる。
それらを通過するとようやく「登山」らしい道となった。



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なかなか良い雰囲気だ。



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サルオカゼが群生しており実に神秘的な光景だ。



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前方が明るくなり、どうやら「大崩れ」(ナナイタガレ)の縁に出るようだ。
少し覗き込んでみたが視界が悪く、迫力ある姿を見ることは出来なかった。



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ナナイタガレからは右へと進み、コメツガなどの密林を抜けて進む。
この頃から、雨とも霧の水滴とも判別の難しいものが落ちてくるようになった。



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そして密林を抜けると、それはあった。



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12:10、「七面山」(1989m)登頂。
標高差約1500mを2時間40分で登ることが出来た。

山頂はウラジロモミやコメツガの若木に囲まれており展望は無い。



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さて、問題の八紘嶺ピストンをどうするか。
CTは往復6時間20分なので4時間、下山は1時間30分程度と見積もった。
少し寄り道しても18:00には下山することができるだろう。



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しかし天気が怪しかった。
強いガスの中にいるためにレンズも曇り始める。

よし、八紘嶺は日を改めて静岡側から登ろう。
今日は早めに下山を済ませ、別の一座を登ることにしよう。



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まず敬慎院でお参りを済ませ、裏参道から下山する行程だ。



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さて、実は敬慎院には少しだけ用事があった。

昨年の晩秋、針ノ木峠で二人の若いお坊さん達と知り合いになった。
その二人は敬慎院に縁があり、そこには面白い人物がいて気が合うだろうから機会があったら訪ねてみて欲しいと言われ続けていたのだ。


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2013年から山梨県身延町で開催されているトレイルランニングのレース『修行走』をご存知であろうか。
このレースを立案した人物は、敬慎院で筆頭執事を務める徳の高いお坊さんである「小松祐嗣」氏。
田中陽希さんのグレートトラバースでも活躍されており、時々メディアでお姿を拝見することもある。

彼らの言う面白い人物とは氏を指していた。
私も興味があったのでご挨拶だけと思い立ち寄ることに。

逢拝所まで下りてきたがやはり雲がぶ厚く、富士の姿を拝むことは出来なかった。
随身門をくぐり抜け、五十丁目である「敬慎院」へと向かう。

小銭を賽銭箱に投げ込んだら、息子くんにお守りでも買ってかえろうか。

しかしこのあと、この不信心な中年ハイカーは、生涯忘れ得ぬ数々の貴重な経験をすることになるのであった。



第二部の記事へはこちらからどうぞ。



今回も最後までお読みいただきまして大変ありがとうございました。


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by yama-nobori | 2016-09-22 19:32 | 登山 2016 | Comments(0)
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