おれたちの頂@巻機山 2016.12.18(日)



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巻機山(まきはたやま)は新潟県南魚沼市と群馬県利根郡みなかみ町の境、三国山脈にある標高1,967mの山である。
山名の由来は、頂上一帯が御機屋と呼ばれ、美女が機を織っていたという伝説によるもので、山麓の大木六村に、機織りの女神である栲幡千々姫命が、巻機権現として祭られている。


秋に登った平標山からの移動中、美しくたおやかな山容の一座に心を奪われた。
A嬢にあの山は何かと尋ねると、巻機山であるとの答えが返る。
それ以来、心の片隅にはいつもこの山があった。

平標山の記事へはこちらからどうぞ。





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12月も半ばを過ぎていたが、未だまともな雪を踏めていなかった。
晴れの日が多く、高温低温を激しく繰り返し続けた富士山では早い段階から氷化が進み、素人には既に手を出しにくい存在となっていた。
南アルプスの積雪は駆け足で深くなり、登りたい山へは一泊では届かない。
かといって、例年足慣らしで登ることにしている八ヶ岳は相変わらず黒いままだったのである。

先シーズンは、結果雪の多い年となったが(とはいっても、ここ二年間が異常に少なかっただけ)、この時点、登りたいと思える適度な雪山が近くには無く、国内有数の豪雪地帯にあるこの一座に目をつけたのだ。

いんちき登山者Sくんに連絡を取ると、日帰りなら遊べるとの返事があった。
A嬢も何度か登っているという標高2000mに満たない観光地深田百名山、いくら厳冬期であろうとも、まあ問題なかろうと出かけていった。

彼の仕事終わりを待って、私の車で新潟へと向かう。
移動中は大いに盛り上がり、明日は何時に登頂できるだろうか、下山後は何を食べようか、もうこのまま観光でも良いよねなどなど、気分は完全に遠足だった。

関越トンネルを抜け、晴れ予報の新潟へ入ると雨が降っていた。
雪では無く雨...、おいおいここは本当に豪雪地帯なのか?
それにそもそも、巻機山は本当に雪山になっているんだろうか。
意外にも路面上に雪は無く、心配していた凍結も無い。
幹線道路を外れると街頭も少なく、街の様子はよくわからなかった。

コンビニで買出しを済ませて登山口へ向かう....と、
道路上に突然現れたアーチ状の車止めにフロントから突っ込んで死んだ...と思ったら、それは消雪パイプからの水だった。
消雪パイプとは、道路に埋め込んだパイプから路上に設置したノズルを通して路面へ地下水を散布する除雪・融雪・路面凍結防止装置である。

これには二人して大笑い。
そして大きく安堵した。

登山口へ向い徐々に標高を上げていくと路面に雪が現れたが、除雪のお陰で2WD+4年越しスタッドレスで問題なく走行することができた。
目指していたのは冬季登山口となる清水集落である。

久しぶりの雪道走行を楽しみながら暗い山道を進んでいたが、清水集落手前3km程にあるトンネルを抜けると笑顔が消えた。
除雪は途切れ、全く進むことができなくなったのである。
相談の結果、このトンネルに車を乗り捨てて、歩いてしまおうという話になった。




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5:00、狭い軽自動車で、野郎二人躰を寄せ合って寝ていると、トンネル内に爆音が響き渡って飛び起きた。
近づいてくるライトを見て状況を把握、慌ててハザードを焚き存在をアピールすることで、事なきを得た。

爆音と共に現れたのはヒーローだった。
これで余計な3kmを歩かなくても良くなった。
除雪車の作業時間を考慮してのんびりと走り始める。

天気もまずまず、やはり世の中思い通りなのである。




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6:00、登山口以外の情報は調べないのが常ではあったが、清水集落に到着し大いに後悔することになった。
やはりここは、紛うことなき国内有数の雪国だったのだ。

ちなみにここはバス停、標高は600mである。



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6:17、身支度を整え歩き始める。
除雪を終えたばかりなので、先行者などいるはずはない。




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民家周辺の道路上の雪は、例の消雪パイプのおかげで溶けている。
しかし民家が途切れると、呆れるほどの深雪が待っていた。



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心の準備も無いままでラッセルが始まった。



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スノーシューを履いてみるも全く効き目の無い雪質で、二人して五分後にはぐはぐはだ。



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古いトレースがあるのでルートに不安は無い。
しかし降り積もった雪は、深いところでは胸の高さまで達している。

昨夜の雨は、ここ巻機山では雪だったのだ。



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しかも今ぐはぐはしているのは、桜坂駐車場(夏季駐車場)へと続く単なる道路である。
登山道は一体どんなことになっているんだろうか。
焦燥と絶望感満載な状況ではあったが、こんな時に有り難いのが、アホな体力馬鹿の存在だ。
大半のラッセルを彼に任せ、バカ話をしながら後をついていく。




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7:25、どうやら桜坂駐車場を通過したようだ。

今記録を確認したところ、ここまで68分で到着したことになっている。
清水集落からは距離1.9km、夏道では40分のCTが付けられているので、まあかなり健闘したようだ。




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7:30、深田百名山の立派な案内板の前にやってきた。
シーズン中ならば、この爽やかな色使いの道標の前で「いってきま~す!」的な写真を撮るのだろう。
しかし我々は一瞥をくれただけで通過する。

これから登る井戸尾根の状況が気になって仕方がなかったのである。




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気温は0℃と暖かかった。



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7:41、ようやく登山口に到着した。



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ここでもルーファイへの不安は皆無だった。
しかし全くまとまることのない深雪に翻弄され続け、標高計は遅々として進まない。




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雪の重みに負けた木々が登山道を塞ぎ鬱陶しい。
ラッセルを交代しつつ突破する。



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徐々に標高を上げていくと、本気の急登が待っていた。
スノーシューは無用の長物となり、ワカンを着けるも効果の程は甚だ怪しい。



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腰程度の段差さえ乗り越えられぬ無力さには、二人して泣けてきた。



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すると「トレースありがとうございました。」と、浮力を活かしたスキーヤーが軽やかに登っていった。
くそぉ~...



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古いトレースが悪さをしているんじゃないかと、適当な斜面に踏み込んでみる。
すると酷いしっぺ返しが待っていた。当たり前だ
しかしやり始めたことを途中放棄出来ない馬鹿共は、セオリーを無視して汗だくで直登する。




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三歩進んでは大きく肩で息をする。
先頭を交代しながら幾度となくこれを繰り返す。




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9:30、それでもぐっはぐっはともがき続けていると、なんとか主尾根に立つことができた。
たどり着いたのは「焼松」と呼ばれる五合目付近、標高は1120m辺りだと思われた。




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南側には上越のマッターホルンと呼ばれる大源太山が、鋭い尖塔を空に突き上げている。



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進行方向ではニセ巻機山が、思いの外近い位置で見えていた。
しかし問題は距離では無くこの雪質だ。
このペースではとても届くはずがない。

残念だったが敗退を決めた。



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私はこのまま下りてしまおうかと思っていたが、Sくんはクソ馬鹿メタボアホ変態漢だった。
「まだ時間も早いし進めるだけ進んでみよう。」と歩き始める。



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確かに天気も悪くはないし、もうちょっと頑張ってみるか。



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少し進むと雪が固くなり沈み込みが無くなった。
「これなら行ける。」



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特に話し合う必要もなく、我々の目標は再び山頂となった。
これまでの遅れを取り戻すかのようにペースが上がる。

やっぱりSくんは素晴らしい奴だと思っていると、先行していた彼が何やら騒いでいる。
熊のうんこでも踏んだのかと近づいてみると、硬雪だったトレースがテン場の整地跡で終わっていた。



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再び広がった深雪を見つめて暫く悩む。

ここで帰るのはあまりに寂しすぎる。
というか、さっきのところで帰れば良かったじゃねぇーか、やっぱりあいつはクソ馬鹿メタボアホ変態だ
せめて稜線には立っておきたい。
さほど遠くはない、前方の明るく開けた場所を目指してみることにした。



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しかし本当に過酷なのはここからだった。

おそらく夏道は別の場所にあったのだろう。
何も知らない我々は、深雪の下に隠れていた薮に足を取られ、その度に体力を削られ続けた。
頻繁に腰まで落ち、引き抜こうにも両腕を支える術がない。

技術もクソもない、必要なのは根性だけだった。



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雪にもがき薮に顔を叩かれ心が折れる。
ぐっはぐっはと、もがき続ける。



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豪雪地帯の厳冬期はタフだった。
しかも降雪直後のラッセルとなれば尚更だ。



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しかし結果はついてきた。
口も利けなくなるほどの雪行軍の末、ようやく目標の場所に立つことが出来たのだ。




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直線距離僅かに200m、標高差15m程を進むのに1時間以上を要していた。



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12:00、標高1360m、六合目と思われるこの場所を「おれたちの頂」とした。



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天狗岩・割引岳・ニセ巻機山が美しい。
今シーズンようやく見ることのできた、本物の雪山の美しさだった。



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気温は高くそして無風、厳冬期であるにも関わらずグローブの必要もない。
この時期の新潟では珍しい、最高の天気図の下での完璧な敗退だった。




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素晴らしい展望の中で食べたチャーハンが抜群に美味かった。



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思えばSくんと出会ってから、まだ高い山に登ったことが無い。
二人揃って2000mを超えるのは、一体いつの日になるのだろうか。

「1300mなんて鉄砲木の頭じゃねぇか」と大笑いした。




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12:55、苦労の末に掴み取った展望を目に焼き付け、「おれたちの頂」を後にした。




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もがき苦しんだ二人のトレースを戻る。



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下山途中、スキーヤーが軽やかに滑り降りてきた。
この日無事に山頂に立つことの出来た、唯一の英雄が眩しかった。

負け犬達は惨めに下りる。



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桜坂駐車場まで下りて来た。
そして振り返り衝撃を受ける。



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そこからは、「おれたちの頂」で見たのと大差ない景色が見えていた。
望遠で寄せれば恐らく同じ写真になったのでは無いかとさえ思う。

「あそこまで何のために登ったんだろう...」



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14:25、集落に戻り、温泉へ向かう。
復路の車中も馬鹿話が楽しかった。

今シーズン初となる雪山は、敗退で幕を開けた。
しかしそれも、今となっては良い思い出である。
雪が消えたら二人で再訪し、この日届かなかった「本当の頂」に立ちたいと考えている。



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何はともあれ、私のブログにもようやく本格的な冬が訪れた。

世間では新緑の頃はとうに過ぎ、山開きだ高山植物だ梅雨入りだと騒がれているが、今の私は全く興味が無い。
山は太古の昔より変わること無くただそこに在り、規則正しく季節は巡る。
近年数多くの山雑誌が発売されるようになったが、内容は30年前となんら変わらず、増えたのは広告と価格だけである。
各紙の表紙は季節にあわせた写真に彩られてはいるが、一年以上前に撮影された風景であり、実は旬でもなんでも無い。

私は強い意志を以って我が道を進みます。
世俗的な流れに媚を売るような、女々しいことは致しません。

『不動如山』
揺らぐことの無い強い意思で邁進する、かっこいい当ブログを今後共宜しくお願い致します。

もうね、全然追いつかないんです...無理なんですよ...
なんとかしたくてもがいてるんですが、ゴミ溜めでの生活が辛いんです...
せっかく頂いているコメントへもろくに返事もせず、放置しちゃってめんなさい...
本当は良く撮れた高山植物や新緑の写真を今すぐ載せたいんですよ...
最近はツクモグサを見てきたんです...キタダケソウだって撮りに行くんですよ...
旬な記事を書いてアクセス数を伸ばして人気者になってちやほやされたいんです...



おしまい。


今回も最後までお読み頂きまして、大変ありがとうございました。


↓励みになりますので、よろしかったら『ぽち』っとお願い致します(^^)/


by yama-nobori | 2017-06-09 21:23 | 登山 2016 | Comments(4)
Commented by いっしー at 2017-06-09 21:58 x
面白かったです!!
Commented by すな at 2017-06-09 22:07 x
いやー、あのアーチ状の輪留めはマジで死んだと思いましたねw 
あの日は色々笑ったけど、やっぱりアーチが一番面白かったと思います。
車内の動画とかもし撮ってたら二人の「終わった・・・」って顔が見れてさらに爆笑できたんでしょうなw
Commented by ゆうこ at 2017-06-10 08:30 x
冬山の記事、ありがとうございます。なんだか笑っちゃいました〜:-)春の記事もお待ちしてます!
Commented by sen230727 at 2017-06-12 18:08
最初の冬山、最高の天気図の下での完璧な敗退!優さんでもこんなことが有るんですね。
私は絶対に有りません。冬山に絶対行きませんから!ラッセルで大汗を掻いて低体温症で命を落とすのが
目に見えています。ラッセル作業が大変だから、栃木で雪崩のリスクが有りながら訓練しようとしたのでしょう。平成26年9月24日に同じ桜坂から登りました。この時の写真から積雪1m前後と思われますが、
新雪の為腰まで沈み込んだのでしょう。雪が消えたら再度登るとありますが、鼻歌気分で居眠りしながら
コースタイム半分で登れるでしょう。居眠りは冗談です!登った記録を観ると、ニセ巻機山の表示を観て栃木県
の登山者が『ニセとは山に失礼だ』と怒っていました。私も同感です。優さんが間ノ岳は不憫な山と言われて
いましたが、このニセ巻機山の方が不憫と思うのですが!次回登って見て呼称変更を一緒に運動しませんか?
以上新潟勤務経験者からの提案です。

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