藪山讃歌【寸又峡~丸盆岳東尾根】①@南アルプス深南部 2017.04.30(日)~05.03(水)



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南アルプス光岳以南、2000m級の山群を深南部と呼ぶ。

本州唯一となる原生自然環境保全地域を含み、人為的影響を受けずに今なお原生の姿のまま維持されているこの貴重な山域は、深い谷に寸断された複雑な地形を構成し、それぞれの尾根に幽玄の頂を乗せている。
アプローチは長く、登山道も殆ど整備されていない上に、その多くは藪に覆われている。
体力と経験、読図技術が必須となる、容易に人を寄せ付けることの無い「南アルプス深南部」が、本記事の舞台となる。

久しぶりに満足の行く山行を楽しむことが出来たので、秋冬の記事を飛び越してGWの記事を書くことにした。
冬の記事を早く書けという関係者の方々よ、どうか見逃して欲しい。
日々老化と戦うおっさんの記憶力には限界があり、優先順位付けが必要なのだ。
というか、読んだらたまにはコメントくらい書いてくれ。
2、3分で流し読みしやがって。
これ書くの時間かかるんだぞ(--#)
友達のいない寂しいおっさんの独り言のようじゃないか...まあ老後の楽しみだからそれで良いんだけどねw





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歩いた範囲が広すぎて、概念図の様になった。
示しているのは、寸又峡を起点とした丸盆岳東尾根~黒法師岳~房子山~沢口山、移動距離44km、累積標高差上り下り共に4500mの周回である。



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GWはめでたく9連休、行き先候補は二つあり、どちらも魅力的だった。
一つは聖岳~赤石岳~荒川岳の周回、しかし相棒の都合が悪くなりこちらはボツとなる。
パッキングを藪山仕様へと変更し、まだかまだかとこの日を待った。

ご一緒頂いたのは、バリエーションでしか「生」を実感することの出来ないHさん御夫婦だ。
まだ記事には書けていないが、2016年12月にとある山の変なバリエーションに連れて行かれ、吐く寸前まで追い込まれた。
こんな御夫婦の計画がノーマルルートであろうはずがない。


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入山前日から清水市の御自宅に泊めて頂き、明るい内から食べて飲んだ。
翌朝の自宅スタートは03:00、寸又峡へは2時間30分程かかるらしい。

実は入山の2週間程前から体調を崩し、酒を断っていた。
その影響からか酷い二日酔いとなり、移動中の車ではぐったりだった...。

H旦那さん、運転...ありがとうございました...。

せっかく寸又峡に到着したというのに、テンションが上がらない。
それでも無理やり朝食を流し込み、山岳図書館にあるBOXへ登山届の提出を済ませた。



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クソ重たいザックには3人揃ってうんざりだった。
この先の二日間は水場が無い上に、これから歩く林道上で給水可能かハッキリしなかった。
最大4泊を想定した幕営装備に2日分の水は流石にずっしり、私のザックは27kg程となった。
いつも「2~3kgなんて誤差だ、軽量化とか意味がわからねぇ」と言っていた私も、500mlの酒を1本車に残すことにした。



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寸又峡は観光地である。
私は「夢の吊り橋」が楽しみで仕方なかった。

6:00、一人先行し、ぼてぼてと「寸又峡」(540m)を出発した。



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人っ子一人いない、早朝の静かな観光地を行く。



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ここに戻って来るのは早くても3日後である。


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新緑眩しい静かな林道を歩いていると、少しずつ体調が戻ってきた。



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しばらく進むと、梢の中から美しい色彩が目に飛び込んでくる。
大間ダムだ。

6:30、階段をぐんぐん下りる。


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「わぁ~」思わず声が出た。

早速渡ってみる。
チンダル現象の湖面が翡翠のようだ。



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人が少なかったので、二往復して絶景を楽しんだ。
Hさん夫婦は飛龍橋経由、つまりこの吊り橋を迂回して林道を進んでいた。



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この一枚は林道から撮って頂いた、吊橋にいる私の姿である。
今回の山行ではH女房さんが沢山写真を撮って下さったので、積極的にお借りすることにする。
尚、美男美女のお二人は残念ながら顔出しNGだ。



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絶景を独り楽しんだ私への代償は、きつい登りの階段だった。



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ひぃひぃ言いながら登りきり、ザックを放り出してしばし休憩。
この重さ、ほんとに大丈夫なんだろうか...。



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やがて御二人と合流となった。



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7:18、長い長い水平移動が始まった。


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少し進むと千頭森林鉄道で使用されていた車両が「尾崎坂展望台」(560m)に展示されており、側に自販機とお洒落なトイレがある。
この場所を最後に、いよいよお金が価値を持たない数日間が始まった。



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7:22、ゲートを通過する。
H女房さんが前もって中部電力へ林道を歩く旨のお伺いを立ててくれていたので、我々は立派な関係者である。
目指す千頭ダムは10km程先にある。


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落石の多い林道だ。
ひしゃげたガードレールに肝を冷やしながら歩き続ける。



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いくつか暗い隧道を通るので、前以ってヘッデンを用意しておくと良いだろう。
この日は数箇所で水を採ることができた。

ほぼ斜度の無い水平移動ではあるがとにかく長い。
しかし一人ではつまらない車道歩きも、気の合う仲間がいれば楽しい時間となる。

進むほどに谷が深くなった。


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途中、中部電力のパトロールカーがやってきた。
きっと「物好きがいるもんだ」と車内で話していたに違いない。



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変な尾根への変な取り付きを見つけては嬉しそうにしている変な御夫婦が、実に不気味微笑ましい。
御夫婦のご自宅には無数の地形図がある。
これを夜な夜な広げ額を突き合わせている姿を想像すると、不気味を通り越して妖怪の宴同じ趣味を持つ理想の夫婦が妬ましくも思える。



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9:23、ようやく千頭ダムが現れた。



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チンダル現象の湖面がキラキラと輝き、眠気を誘うほどに美しかった。
平和極まりない風景に後ろ髪を引かれつつも、我々は妙な方向へと突き進む。



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大無間山・光岳への登山口を見送ると、いよいよ秘境となった。



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地形図に無い素掘りの隧道を進む。
内部はぬかるんでおり、不気味である。



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昭和26年当時には「東洋一」と賞されたという、天地索道の遺物を随所に見ることができた。
埋もれていたのはダットサンだろう。



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更に進むと寸又川を渡す吊橋が現れる。
あれが噂に聞く「天地吊橋」(656m)だ。



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過去幾つもの吊橋を渡ってきたが、こいつが一番怖かった。
さほど揺れるわけでは無いが、シンプル過ぎる造りが恐怖心を煽るのだ。



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そして何より恐ろしかったのが、この老朽化したそろばん板と錆びて抜けかけた釘だった。
一体何を信じれば良いのだろう...。



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落ちて行く自分を想像し、細いワイヤーを掴む手に汗が滲む。



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男どもはビビりまくっていたが、H女房さんはひょいひょいと渡ってくる。
頭がおかしい全くもって感服である。

後に調べたところ、天地吊橋は1999年6月に架け替えが行われたのだそうだ。
しかし何の為に架け替えたのか...。



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何故なら、命からがら渡った吊橋の先には、もう道が無いのである。

事前に参謀H女房さんが引いたルートでは、この急斜面をしばらくトラバースし、頃合いを見計らって尾根に向い直登、「天地のコル」(918m)を目指すようになっていた。
しかし一歩踏み出してみると、砂礫のトラバースがあまりにも脆く、5mも進まない内に進退窮まった。



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荷物が軽ければいざしらず、この重装備でバランスを崩せばそのまま川へと叩きつけられる。
地形図を読み直し、尾根への直登を提案、目標を「天地のコル」の東300mとした。

10:00、Hさん御夫婦はロープとハーネスを用意、核心部に取り付いた。



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写真では伝えられないが、ただ事でない急斜面である。
基本姿勢は四つん這い、全ての岩は脆くてホールドには使えない。



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時々現れる木の根を指先で摘み、体を引き上げるのが精一杯だった。



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途中大岩の下で一度だけ休むことができた。
この先に地形図に無い難所が現れないことを祈り、小休止の後再び直登を開始する。



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同じことを考えた登山者が他にもいたようだ。
リボンを見つけた時にはルーファイが正しかった事を知りほっとした。



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あまりの急傾斜に二人を待っている余裕が無くなった。
尾根を目指して先行する。
細心の注意を払っていたが、一度大きな落石を起こしてしまった。

私は直登、御夫婦はややトラバースで登る。
写真を撮る余裕は一切無くなり、体を必死に持ち上げ続けた。



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12:05、風が吹き抜けた。
ようやく尾根に乗ったのである。

荷物を放り出し、登ってきた斜面に耳を傾けたが何も聞こえない。
心配になり10分間程注力していると、眼下から物音が聞こえて安堵した。
座り込んでパンを食べながら、眼前にある山座同定することのできない山にコンパスを向けると、ようやく深南部にいるんだなと実感することができた。



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12:35、Hさん御夫婦が無事に到着。
格闘すること2時間35分、核心部の突破を喜びあった。



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13:00、休憩を終え再出発。



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程なくして二股の大杉が立つ「天地のコル」(918m)に到着。
本来予定していたルートでは、ここで合流することになっていた。
薄っすらとした踏み跡を見ることが出来た。



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足元には「天地の神様」が祀られているが、かつて在ったという祠は朽ち果て台座は割れていた。



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上西歩道を右手に見送り、いよいよ丸盆岳東尾根の取り付きとなる。

地形図通りの急勾配が続く。
晴れてさえいれば、登り尾根は収束するのでルーファイへの不安は無い。
しかし視界不良時には、例え登りであっても読図の技術が必須となる山域である。

久しぶりに地図を頻繁に読む山行となった。



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左に現れたガレは縁に沿って進む。
眼下には千頭ダム、その上方に見えているのは朝日岳だろうか。



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急登の影響だろう、H女房さんの調子が上がらなかった。

しかし焦る必要は全く無い。
この先の行程はまだまだ長く、予備日もあるからだ。
そもそもコースタイムが存在しないのだから、正しい予定など組めるはずがない。
向き合うべきは地形図と、その日歩いた結果からの逆算と予想、そしてもしもの時のエスケープルートを確保しておけば問題無いのである。



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尾根は1277mで角度を変え緩やかとなる。



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幕営適地を品定めしながら少し進むと、かつて利用されていた林業機械が残留されていた。
周囲をよく見ると、辺りには古いワイヤーがいくつも張られている。




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H女房さんによれば、かつてこの場所には先程の上西歩道が通っていたのだそうだ。
確認すると、確かに地形図にも載っていた。

良い場所だ。
風を避けることもできそうだ。



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15:45、荷物を放り出しテントを張れば笑顔が戻る。



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温いビールが抜群に美味かった。



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早目の夕食をとり、それぞれのテントに潜り込む。

疲れていたのだろう。
私は本を読みながら、かなり早い時間に落ちていた。

鹿の声を聞いた気がして夜中に一度目が覚めた。
夢だったのであろうか、その後声は聞こえなかった。

明日はいよいよ鹿道を借りて深南部の稜線に立つ。
まだ遥かに高い目指す稜線に月が落ちると、樹林の影は薄くなり、夜は静かに深くなった。



第二部の記事へはこちらからどうぞ。



今回も最後までお読み頂きまして、大変ありがとうございました。

↓励みになりますので、よろしかったら『ぽち』っとお願い致します(^^)/


by yama-nobori | 2017-05-10 23:10 | 登山 2017 | Comments(5)
Commented by suna at 2017-05-10 23:38 x
こんにちは。
今回もアツイ山行お疲れさまでした。
まだ投稿してない山行記事をほったらかしてまで今回のに手をつけたということで非常に楽しみにしております。
というかすべての記事を楽しみにしております。
なんせ私はこのブログの世界一のファンですからな!
Commented at 2017-05-11 00:09 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ねも at 2017-05-11 08:55 x
いやぁ以前にも増して濃~~い山旅ですね。続きも待ち遠しいです。
静岡市民ですが、この辺の山は、朝日岳、沢口山、蕎麦粒山くらいしか歩いていません。

それにしても卒倒しそうな大荷物!! それでもビールだのチューハイだの効率が悪い酒が出てくるのが爆笑です。
Commented by yama-nobori at 2017-05-13 13:13
> sunaさん

おっw
コメントありがとうw
なんか....照れる(^^;
Commented by yama-nobori at 2017-05-13 13:14
> ねもさん

わははw
だって山はお酒を楽しむところですから(^^)/
静岡良いですねぇ~、今年は何回行けるだろうか。
コメントありがとうございました!
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