※編集時間の関係上、細切れの記事になってしまい申し訳ない.... 程なくしてハイマツの中に新しい支点を発見。 岩は脆そうでまずまずの高度感だ。 剥がれ落ちるホールドを押さえ込むように握り、足場を探して確実に下る。 高さは6~7m程であろうか。 八本歯をフリーで下りるようなやや危険な通過点であった。 冬季バリエーションにおいては最大の難所になるのではないだろうか。 しかしこの時期の核心部は別にある。 そう、言わずと知れたハイマツの海だ。 うん、ラッセルの方が楽だよね...。 平坦であり、枯れたハイマツが堆積しているのであろうか、地面がふかふかと柔らかい。 こんな場所が尾根上にあるなんて信じられなかった。 明日は暗い内からのスタートだ。 ここまでに通過してきたような岩稜帯を暗い中で進むべきではない。 それに、起き抜け早々からハイマツの海で泳ぎたいやつがどこにいるものか。 13:53、極上ベッドをあとにした... かなり背丈は低くなったものの、実にしつこいハイマツ達だ。 靴紐の輪に枝が入り込み何度も転けそうになった。 弘法小屋尾根は確実に伸びているはずであったが、この頃になると進んでいる実感が持てなくなりはじめた。 確実に前へと進んでいることを実感し、振り返ることを止めた。 良く見てみると、その向こうに痩せ尾根の末端が見えている。 これならもう、ヘッデンでの登攀もそう難しくはないだろう。 幕営適地を探しながら岩峰に取り付いた。 あまり稜線と北岳には近すぎず、甲府の夜景や月明かりに浮かぶ富士山の見える平坦地... しかしそんな都合の良い場所は現れない。 気付けば標高2935Pの岩峰を過ぎていた。 時間はまだ早かったが、間ノ岳に太陽が隠されはじめた。 しかしどうしても、モルゲンに染まる細川カールを眺めてみたかった。 既に稜線に近づきすぎてしまってはいたが、この場所ならまだなんとかなる。 明日は行程の途中でその時を迎えることができるだろう。 15:07、狭いコルのような場所を整地し90cm四方の平坦地を作った。 ネットで探せば、おそらく幕営適地の情報は画像付きで事前入手することができたことだろう。 しかしそれを潔しとしないのは自分のこだわりだ。 過剰な情報収集は登山をつまらないものにする。 最近では事前の情報収集を怠ることを「悪」とする風潮があるようであるが、観光案内のような地図に記載されたCTも含め、そこにあるのは所詮他人のつけたトレースだ。 藪山山行にそんなものは必要ない。 バリエーションを歩くからには、地形図と先人の言葉だけを頼りに進みたい。 背中面のみがフラットで、膝は直角に曲げることができる。 幕内に掘り炬燵を作ったのは初めての経験だ。 座っている分にはこの上なく快適であるが、眠れる気が全くしない... あの2800m付近のふかふかベッドが懐かしかった。 しかし掘り炬燵との引き換えに手に入れたものは大きかった。 前方には200m程の急斜面と岩峰帯が見えてはいたが、ここまでの行程を思えばなんてことはないだろう。 明るい内に明日のルート取りを検討して幕へと潜り込む。 風がやや出てきたが、吹いているのは滝ノ沢カール側であり、ツェルトを張った細川カール側は無風のままだった。 日が暮れると甲府の街灯りがちらちらと瞬きだし、月明かりに青く浮かび上がった細川カールの直上には満点の星が輝き始める。 ツェルトを通して月明かりが落ちてくる。 ヘッデン不要な明るい夜だった。 秀峰に抱かれ飲む酒が実に美味い。 最低気温は-1℃で下げ止まり。 この時期としては驚くほどの温かい夜である。 それにしても掘り炬燵で足を下ろして眠れるのだろうか... さぞ長い夜になるだろうと覚悟していたが、夜中に何度か目を覚ます程度で十分な睡眠をとることができてしまった。 ゆっくりと朝食を食べ撤収を済ませた。 標高3000m付近に現れたしつこいハイマツを踏んでいると、北岳山頂にヘッデンが光った。 05:09、3000mの平場に辿り着いた。 ここまで来てしまえば急斜面を詰めるだけだ。 昨日確認した時点では岩峰は巻くつもりでいた。 しかしこれがもう最後の大きな登りになるんだと思うと、俄然闘志が湧いてきた。 全て直上を進むことにし、脆い岩峰に取り付いた。 昨日2900m付近でビバークしたのは、モルゲンに染まる細川カールを間近で眺めるためだった。 しかしここまで登って来ると、その対象は別のものに移ったようだ。 そう、歩き通した弘法小屋尾根の染まって行く様を眺めたくなったのである。 太陽の昇る前のほんの僅かな時間、北岳上空の雲が美しく色づいた。 息を潜めて秀峰達と共にその時を待つ。 しかしちっぽけな私にとっては、いつだって特別な瞬間だ。 この瞬間はもう二度と訪れることはない。 弘法小屋尾根が身をくねらせ谷底へと向かい落ちている。 これほどまでに力強い光ですら、尾根の末端に届くまでにはあと数時間を要するだろう。 そこから這い上がってきたのだ。 明暗が美しく、そして誇らしかった。 残す標高差は100mを切った。 弘法小屋尾根を離れると北岳はすっかり見慣れた姿となった。 その時だった.... 今回のピークは、一般道を認めたまさにこの瞬間だった。 弘法小屋尾根を振り返ると涙が溢れ出た。 ゆっくりと、噛みしめるように歩き一般道へと合流。 顔をあげると青空に映える白い山頂標が間近にあった。 新しくなった山頂標を見たのはこの日が初めてだった。 相性の悪い間ノ岳ではあるが、この日は文句なしの大晴天。 あまりに嬉しかったので滅多に行わない自撮りを敢行して一人照れた。 その間数人の登山者が訪れたが、皆簡単に記念撮影を済ませ足早に農鳥岳へと流れて行く。 やはり間ノ岳はつくづく不遇な一座だと思う。 しかし今回は、とびっきりの 南アルプス北部において、遠方からもっとも山座同定することのできるのがこの間ノ岳だ。 ということは、逆もまた然りなのである。 登頂の余韻に慕ってしばらく景色を楽しんだ。 次回からはようやく高山らしい写真をお届けできそうだ。 だってもう藪には飽きたでしょう? 第五部の記事へはこちらからどうぞ。
by yama-nobori
| 2016-10-25 19:50
| 登山 2016
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Comments(2)
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sugishoo at 2016-10-26 09:31
おはようございます、ゆたかさん
執拗なハイマツとの苦闘、よくぞ耐え抜かれましたね! 日の出前の燃え上がる朱色の山々、素晴らしいですね! 写真を見ても感動しますから、現実はもっと凄いでしょうね!
1
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by
yama-nobori at 2016-10-30 22:12
> sugishooさん
お久しぶりです! ようやくの3000mオーバーの記事になりました。 最近はマイナーな低山ばかりで申し訳ないw 現実はこれに風の音や、キリッとしまった空気が加わりますからね。 一生懸命その場の空気を切り取ろうとするんですけど、素人にはこの程度が精一杯です....。
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