第一部の記事へはこちらからどうぞ。 07:08、弘法小屋尾根に取り付いた。 越えてきた堰堤を振り返り改めて心に誓う。 現時点の標高は1300mである。 まずは手すりパイプの取り付けられている巡視道を利用して標高を上げる。 思いの外斜度が強く、この手すりには随分と助けられた。 7:13、樹林帯の中に朝日が差し込むと冷えた体が一気に温まる。 そうだ、今日は快晴だったんだ...。 その後濡れた服が乾くのにさほどの時間はかからなかった。 手すりパイプは一度途切れるが、標高1500m付近まで巡視道は延びている。 急登ではあるが歩きやすい。 この場所が荒川本谷方面(熊ノ平)と荒川北沢方面への水平道分岐点である。 しかし進むべき進路はこのどちらでもない。 尾根に向かって直進となる。 獣の糞も多い。 鹿道を借りての山行だ。 斜度は強弱を繰り返す。 北側の木々の間からちらほら見えていたのは池山吊尾根だ。 とすれば、右のなだらかなピークは「池山」、左にあるのは「城峰」であろうか。 「頂」として認識したのはこの日が始めてだった。 池山吊尾根の記事へはこちらをどうぞ。 適度な間隔で新旧のリボンを見ることができる。 主に尾根が広くなる迷いやすそうなポイントに設置されていた。 年間どの程度のパーティーが歩いているのであろうか。 それと同時に不明瞭な箇所も多くなるが、基本的には尾根を外さなければ良いだけなので登りで迷うことはないであろう。 ここまでに尾根を直登せずに巻いたのは二・三箇所だけだった。 この感じが南アルプスらしくてたまらない。 森林限界の高い南アルプスは、唐突に大展望のひらける事がとても多い。 尾根に乗れば藪は消え、木々の間から南側の景色も見え隠れを繰り返すようになる。 吹き抜ける風が心地良く、これから見ることのできるであろう雄大な景色を想い心がはぜる。 標高2150m、南アルプスの美林に酔い始める。 リボンは未だ健在であった。 しかしまだ薄いところを突くことができるので何ら問題はない。 木々の間から覗く秀峰達の引く尾根が、次第に気になり始めた。 標高2300m、リボン健在。 幕営適地には真新しい焚き火の跡があった。 人知れず歩いている登山者が他にもいるようだ。 最近では登山と焚き火の組み合わせに驚く方も多いだろう。 仙丈ヶ岳の小屋が廃墟だった頃は直火で飯を炊いて食うのが好きだった。 南アルプス北部でこれが許されるのは、もう白根南嶺周辺だけなのかもしれないな。 焚き火の跡を見たのは久しぶりだった。 明るい尾根道を行くことが心から嬉しい。 尾根が細くなれば視界の開ける頻度が高くなる。 南側に見えているのは農鳥岳。 鞍部には農鳥小屋のトイレが見えていた。 早くも目線と同じ高さにあることに少々驚いた。 やはり急登は好きだ。 良い山だなぁとつくづく思う。 この場所は、この日目標としていた最低ラインである。 到着予定時刻より3時間程巻いていたので通過することにした。 10:46、次の幕営候補地であった、標高2580mポイントも通過する。 この辺りでリボンは見かけなくなった。 密度の薄い箇所を狙って漕ぎ進む。 背丈を遥かに超える屈強な藪達が行く手を阻み、そう簡単には道を開けてはくれなくなった。 ルーファイを行い、尾根を外さないことに注力し突き進む。 間もなく森林限界だ。 となれば、藪漕ぎで最も手強い彼等が待っている。 これからの行程に備え、この日初めて腰を下ろしての休憩をとった。 いずれ歩いてみたいと考えている、農鳥岳へと直結する大唐松山尾根に釘付けとなる。 不安に感じていた体調不良の影響も無く、疲れも殆ど感じない。 ここまでは出来過ぎな程に順調だ。 標高2620mの幕営適地ではあったがまだまだ行ける。 それにもう、南アルプスの秀峰達はこの弘法小屋尾根を包み込み、手を伸ばせば届きそうな距離感で待ってくれている。 細川カールを真正面から見てみたい。 そして今夜は、月明かりに浮かぶ彼らと語り合いながら酒を飲むんだ。 しかしその為にはまず、奴等を突破しなくてはならない。 さあ、やるか。 11:25、いよいよ核心部が始まった。 第三部の記事へはこちらからどうぞ。
by yama-nobori
| 2016-10-20 22:17
| 登山 2016
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