いつも通り道志みちを走り抜け、山中湖までやってきた。 春霞によりややぼやけた富士山を眺めながら少し休憩をとる。 誇るべき日本のシンボルは、この日も海外からの観光客を楽しませていた。 通常は広い登山者用の無料駐車場のある「いやしの里 根場」に車両を停め歩き始める。 鍵掛峠から周回することも可能であるが、今回はこの林道をバイクで突っ込んでみた。 なかなかの悪路が続く。 四輪車での侵入は難しそうだ。 路面がかなり手強くなってきたので、ここでバイクを降りた。 おそらくCT上で40分程短縮出来たのではないだろうか。 9:30、林道を歩き始めた。 山頂までのCTはおよそ90分、標高差は470m程である。 少し林道を進むと指導標が現れ、いよいよ登山道となる。 ゆるやかに付けられたつづら折りの登山道を進み、標高を上げる。 やはり御坂山塊の樹林帯は明るくて良い。 緑は美しく、鳥達やハルゼミの声も賑やかだ。 標高1503m地点で左右に分かれた分岐にぶつかった。 この分岐点は最近の地図には載っていない。 踏み跡のしっかりとした、上写真の道へ進むとルートロストとなる。 下写真右下に伸びているのが今歩いてきた根場からの登山道、王岳へは左上方向に進む。 歩を進めると展望の開ける場所があった。 富士はまだ霞みきってはいないようだ。 山頂からの景色が楽しみだ。 やや足元の悪い笹の煩くなった登山道を進むが、そう長くは続かない。 程なくして平坦地となり、「その時」が訪れる。 山頂標が目に飛び込んでくる光景は、標高とは無関係にいつも嬉しい瞬間だ。 特に展望の無い山頂の多い山梨百名山においては、最も興奮する瞬間であると言っても過言ではない。 10:20、「王岳」(1623m)登頂。 CT90分に対し、所要時間は50分であった。 早速展望を確認してみる。 僅か一時間足らずで得ることの出来る景色とはとても思えない、素晴らしい眺望だ。 お馴染みの山梨百名山の山頂標が無いなと探してみると、可哀想なことに、現在の標識への支柱に成り下がっていた。 一段高くなった岩があることに気付いたので早速登ってみる。 広大な青木ケ原樹海を手前にし、おおらかに稜線を広げた富士山への展望は一級品である。 しかし冒頭で触れた「十二ヶ岳~節刀ヶ岳~鬼ヶ岳~王岳」の周回コースを取れば、奥秩父・南アルプス、そしてこの王岳へと続く稜線の眺めがこの展望に加わることになる。 それ故、この王岳からの展望は「いまいち」としてガイドブック等に紹介されていることも多い。 晴れた日には周回で歩き、皆さんがこのガイドブックと同じ感想を抱くことができれば良いなと思う。 眼下には、西湖と朝出発した「西湖いやしの里根場」(さいこいやしのさとねんば)が見えている。 現在この「西湖いやしの里根場」は、茅葺民家を復元した野外博物館として人気を集めている。 かつて同地にあった旧足和田村根場集落には、当時盛んであった養蚕の便宜を図って2階に窓を設けた「かぶと造り」の茅葺民家が建ち並んでいた。 しかし、1966年(昭和41年)の台風により土石流が発生、集落を飲み込み西湖へと押し流してしまった。 御坂山塊の至る所で戦後最大級となる甚大な被害をもたらしたこの台風は、富士山山頂での観測史上最大となる、91mの風速を記録した。 地質学的に崩れやすい当地に村を再建することは危険であると判断され、残された住民達は青木ヶ原末端へ集団移転することとなり現在に至る。 王岳の山腹こそが、この土石流の発生場所であったのだ。 王岳にはまた訪れることがあるだろう。 その時にはしっかりとした縦走を楽しんでみるつもりである。 下山後「西湖いやしの里根場」から王岳を眺めてみた。 中央の扇型の丸い頂が王岳だ。 根場からは、他の場所から見た山容より遥かに優しい印象を受ける。 しかしあの日、昔から「大岳」と呼ばれ親しまれてきた故郷の山が一瞬にしてその表情を変えたのだ。 水面に釣り糸を垂らしている釣り人も居眠りを始めているようだ。 眠気を誘う平和な光景だ。 ずっと続いていけば良い。 二度と同じような災害の起きないことを切に願いつつ、静寂漂う春の西湖をあとにした。
by yama-nobori
| 2016-06-14 00:01
| 登山 2016
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