4:30、外気温を確認すると-11℃。 天候は快晴、そして無風。 奥大日岳へ登るには、雪が締まり最高のコンディションであると言えそうだ。 聞こえてくるのは雷鳥の鳴き声のみ。 私は尾根に上がるルート取りを確認した。 5:05、「雷鳥沢キャンプ場」出発。 斜面に取り付くと、すぐ近くにあったハイマツでようやく雷鳥に出会うことが出来た。 素晴らしいブーツアイゼンを履いた彼らは、急斜面をいとも簡単にすたすたと登ることができる。 今シーズン、我々より前に奥大日岳に立った登山者はいたのであろうか。 すると朝の光が立山一帯を明るく照らしはじめた。 間もなく尾根に乗る。 あの素晴らしい景色達は、今年も我々を出迎えてくれるだろうか。 振り返れば浄土山から続く立山が目線の高さとなり、登ってきた我々の標高を教えてくれる。 尾根右手に続く別山方向からは、間もなくほとばしるであろう輝く朝日を容易に想像することができた。 そして正面には半身を隠した剱岳がその姿を現す。 夏道の様に稜線を巻かずに歩くことが可能な冬季登攀に於いては、これから進む尾根筋全てが剱岳の大展望台であると言えよう。 大展望の天空のプロムナードが始まった。 奥大日岳は日本有数の巨大な雪庇が出来ることでも知られている。 クラックと小規模なデブリがあるものの、雪質は安定しており今日の条件は良さそうだ。 この時期の立山では、一般登山者が狙うことの出来る山の中では最も雪山らしい一座であると思う。 同時に登山者の最も少ない一座でもある。 今年も立山にやってくることが出来たことを、喜びと共に実感した。 強くクラストした斜面のトラバースは危険であるため、前方に見えている3つの小ピークを可能な限り直登し山頂を目指すことにする。 やがて尾根は徐々に方向を変え、剱岳の全容が見え始める。 急峻な早月尾根の左手に見えているのは毛勝三山である。 いつか登ってみたいと考えている憧れの秀峰だ。 再度雪面の状態を確認した。 僅かに見えているハイマツを手がかりにルートを決め、前へと進んで行く。 紺碧の空へと続く白い稜線がことさらながらに美しかった。 そこにトレースを残すことは、実に気持ちの良い非日常の世界だ。 空気が澄んでおり、素晴らしい遠望の期待に胸が高鳴った。 その中でも一際目を引いたのは、どっしりと構えた薬師岳の左にツンと尖塔を碧天に突き刺している笠ヶ岳の姿であった。 深田久弥はこのように書いている。 『多くの笠の筆頭に挙げられるのは、北アルプスの笠ヶ岳である。そしてこの山ほどその名に忠実なものはない。どこから望んでも笠の形を崩さない。遠い立山から見ても、近い穂高から見ても、山麓の平湯から仰いでも、飛騨の高山から眺めても、すぐそれと指摘できる、文字通りの笠ヶ岳である。』 奥大日岳のピークからは望遠で寄せてみたいと思う。 いよいよ雪庇を間近に通過することになる核心部が近づいてきた。 雪面は固く、ミスがあればかなり下まで流されることになるだろう。 しかし、それ故に踏抜きや雪庇が崩落する心配の少ないコンディションであった。 アイゼンは小気味良く雪に刺さり、体重移動を行えば滑ることはない。 アルペンルートの全容を見下ろせるようになると、笠ヶ岳に負けじと尖塔を碧天に突き上げている一座が左方向に現れる。 槍ヶ岳だ。 しかし美しさの軍配は笠ヶ岳にあがっているように思える。 笠ヶ岳の下に水平に伸びているのは「雲ノ平」である。 その名の通り、真っ直ぐな土地であることを良く見ることが出来た。 あまりに雄大な風景はスケール感を麻痺させる。 小さくなった雷鳥沢キャンプ場を見下ろすことで、ようやく周囲の山々の大きさを実感することができた。 第三部へと続きます。
by yama-nobori
| 2016-04-26 10:32
| 登山 2016
|
Comments(2)
水晶を挟んで、左に槍ちょこん、右に笠ちょこん、の風景は、赤牛岳から観れます。観る山は両座、でも登って感動するのは、笠の方が上だろうなぁ。テン場からキレット越の秋のご来光は忘れられないんです。
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Commented
by
haizi
at 2016-04-27 19:20
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こんばんは(^^)/ どこのお山にこもってらっしゃるかと思ったら…北アに5日間ですか~!GW前の静かな立山を満喫ですね。なんと贅沢な!! 奥大日岳からの素晴らしい展望に思わず見とれてしまいましたょ~。ライチョウさんも可愛い♡
生クリームの雪面に仰向けになって、人型作りた~~い!!(*'▽')
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